軍歌集-2

月月火水木金金    加藤隼戦闘隊    海軍経理学校校歌    橘中佐(上)    橘中佐(下)    坂元少佐(赤城の奮戦)    爆弾三勇士    父よあなたは強かった                                 
   廣瀬中佐    アッツ島血戰勇士顕彰國民歌    出征兵士を送る歌    日本海海戦(文部省唱歌)    日本海海戦(海路一万五千余浬)    日本海海戦(明治三十八の年)    日本海軍   
水師営の会見    人を恋うる歌    黄海の大捷    紀元節    明治節    紀元二千六百年    紀元二千六百年頌歌                                                                                                

軍歌集-1       軍歌集-3       ♪♪♪


  月月火水木金金
  作詞:高橋俊策
  作曲:江口夜詩

朝だ夜明けだ 潮の息吹き
   うんと吸い込む あかがね色の
   胸に若さの 漲る誇り
   海の男の 艦隊勤務
   月月火水木金金
  
赤い太陽に 流れる汗を
   拭いてにっこり 大砲手入れ
   太平洋の 波、波、波に
   海の男だ 艦隊勤務
   月月火水木金金
  
度胸ひとつに 火のような錬磨
   旗は鳴る鳴る ラッパは響く
   行くぞ日の丸 日本の艦だ
   海の男の 艦隊勤務
   月月火水木金金
  
どんとぶつかる 怒濤の唄に
   ゆれる釣床 今宵の夢は
   明日の戦さの この腕試し
   海の男だ 艦隊勤務
   月月火水木金金

  加藤隼戦闘隊
  作曲:朝日六郎
  作詩:田中林平 
エンジンの音 轟々と
   隼は征く 雲の果て
   翼に輝く 日の丸と
   胸に描きし 赤鷲の
   印はわれらが 戦闘機
  
寒風酷暑 ものかわと
   艱難辛苦 打ちたえて
   整備に当る強兵(つわもの)が
   しっかりやって 来てくれと
   愛機に祈る 親ごころ
  
過ぎし幾多の 空中戦
   銃弾うなる その中で
   必ず勝つの 信念と
   死なばともにと 団結の
   心で握る 操縦桿
  
干戈(かんか)交ゆる 幾星霜
   七度(ななたび)重なる 感状の
   いさおの蔭に涙あり
   ああ今は亡き武士(もののふ)の
   笑って散った その心
  
世界に誇る 荒鷲の
   翼のばせし 幾千里
   輝く伝統 受けつぎて
   新たに興(おこ)す 大アジア
   われらは皇軍戦闘隊

  海軍経理学校校歌
  作曲:城西久治
  作詩:片岡覚太郎 
ゆるぎなき御代(みよ)の姿 うつすちょう東京湾頭
   波寄する築地の岸に 聳(そび)え立つ我等が母校
   星移り人は変れど 古(ふ)りし庭昔を語り
   五十年光栄(はえ)ある歴史  永久(とこしえ)に我等を照らす
   嗚呼懐かしき我等が母校  母校の光栄(はえ)は我等が誇り
   この誇り捨てず進み行くこそ 我等が担う永久(とわ)の使命ぞ
  
身を鍛う筑波のあした< 見はるかす関東平野
   打ち続く黄金の波は 限りなき国の栄えぞ
   ボート漕ぐ墨田の夕  影うつす芙蓉の高嶺
   万古消えぬ深雪の色は 汚れなき国の姿ぞ
   ああ麗しき大和島根や 祖国と呼ぶは我等が誇り
   国を護りて身を捨てんこそ 男(お)の子の光栄(はえ)ぞ我等が誇り
  
仇はらう銃(つつつ)の後ろに 身を焦がす給養経理/td>
   戦いの鍵をぞにぎる 君まもる務めは重し 三年の訓練(おしえ)かしこし
   いざ起(た)たん君の御楯(おんたて) 仕えなん男の子の幸(さち)と
   雄志はすでにとく定まりぬ 今ははた何をかえり見るべき
   五条の聖訓(おしえ)かしこみまつり
   効(いた)せ尽忠(じんちゅう)報国のまこと

  橘中佐(上)
  作曲:安田俊高
  作詩:鍵谷徳三郎
 
遼陽城頭夜はたけて 有明月の影すごく
   霧立ちこむる高梁の 中なる塹壕声絶えて
   目醒めがちなる敵兵の 肝おどろかす秋の風
  
我が精鋭の三軍を 邀撃せんと健気にも
   思い定めし敵将が 集めし兵は二十万
   防御至らぬ隈もなく 決戦すとぞ聞えたる
  
時は八月末つ方 わが籌略は定まりて
   総攻撃の命くだり 三軍の意気天を衝く
   敗残の将いかでかは 正義に敵する勇あらん
  
「敵の陣地の中堅ぞ 先ず首山堡を乗っとれ」と
   三十日の夜深く 前進命令たちまちに
   下る 三十四連隊  橘大隊一線に
  
漲る水を千じんの 谷に決する勢いか
   巌を砕く狂らんの 躍るににたる大隊は
   彩雲たなびく明の空  敵塁近く攻め寄せぬ
  
斯くと覚りし敵塁の 射注ぐ弾の烈しくて
   先鋒数多斃れるれば 隊長怒髪天を衝き
   予備隊続けと太刀を振り 獅子奮迅と馳せ登る
  
剣戟摩して鉄火散り 敵の一線先ず散る
   隊長咆哮躍進し 率先塹壕飛び越えて
   閃電敵に切り込めば 続く決死の数百名
  
敵頑強に防ぎしも 遂に砦を奪い取り
   万歳声裡日の御旗  朝日に高く翻し
   刃を拭う暇もなく 彼逆襲のときの声
  
十字の砲火雨のごと 拠るべき地物更になき
   この山上に篠つけば 一瞬変転ああ悲惨
   伏死累々山を被い 鮮血ようよう壕に満つ
  
折りしも咽を打ち貫かれ 倒れし少尉川村を
   隊長自ら提げて 壕の小陰に繃帯し
   再び向かう修羅の道  嗚呼神なるか鬼なるか
  
十一 十名刀関の兼光が 鍔を砕きて銃丸は
   腕を削りさらにまた  つづいて打ち込む四つの弾
   血けむりさっと上れども 隊長さらに驚かず
  
十二 厳然として立ちどまり  なおわが兵を励まして
   「雌雄を決する時なるぞ  この地を敵に奪わるな
   疾く打ち払えこの敵」と 天にも響く下知の声
  
十三 衆を恃める敵兵も 雄たけび狂うわが兵に
   突き入りかねて色動き 浮き足立てし一刹那
   爆然敵の砲弾は 裂けぬ頭上に雷のごと
  
十四 あたりの兵ら浴びせつつ 弾はあられとたばしれば
   打ち倒されし隊長は 「無礼ぞ奴」と力をこめ
   立たんとすれば口惜しや 腰は破片に砕かれぬ
  
十五 「隊長傷は浅からず  しばしここに」と軍曹の
   壕に運びて労わるを 「否見よ内田 浅きぞ」と
   戎衣を脱げば紅の 血潮淋々と迸る
  
十六 中佐はさらに驚かで 「隊長我はここにあり
   受けたる傷は深からず 日本男子の名を思い
   命の限り防げよ」と 部下を励ます声高し
  
十七 寄せては返し又寄する 敵の新手を幾度か
   打ち返しもいかにせん 味方の残兵少なきに
   中佐はさらに命ずらく 「軍曹銃を執って立て」
  
十八 軍曹やがて立ちもどり 「辛くも敵は払えども
   防ぎ守らん兵なくて  この地を占めんこと難し
   後援来るそれまで」と 中佐を負いて下りけり
  
十九 屍踏み分け壕を飛び 刀を杖に岩を超え
   漸く下る折も折  虚空を摩して一弾は
   またも中佐の背を貫きて 内田の胸を破りけり

  橘 中佐(下)
  作曲:安田俊高
  作詩:鍵谷徳三郎
嗚呼悲惨惨の極  父子相抱く如くにて
   共に倒れし将と士が 山川震う勝鬨に
   息吹き返し見かえれば 山上すでに敵の有
  
飛び来る弾丸の繁ければ 軍曹再び起ち上がり
   無念の涙払いつつ 中佐を扶けて山のかげ
   辿り出でたる松林  僅かに残る我が味方
  
阿修羅の如き軍神も 風発叱咤いま絶えて
   血に染む眼うち開き 日出ずる国の雲千里
   千代田の宮を伏し拝み 中佐畏み奏すらく
  
「周太が嘗て奉仕せし 儲けの君の畏くも
   生れ給いし佳きこの日  逆襲受けて遺憾にも
   将卒数多失いし 罪はいかで逃るべき
  
さはさりながら武士の 取り佩く太刀は思うまま
   敵の血汐に染めてけり 臣が武運はめでなくて
   ただ今ここに戦死す」と 言々悲痛声凛々
  
中佐はさらに顧みて 「我が戦況は今いかに
   聯隊長は無事なるか」 「首山堡はすでに手に入りて
   関谷大佐は討死」と 聞くも語るも血の涙
  
我が勝鬨の声かすか  あたりに銃の音絶えて
   夕陽遠く山に落ち 天籟げき寂静まれば
   闇の帳に包まれて  あたりは暗し小松原
  
朝な夕なに畏くも  うち諳じたる大君の
   勅諭のままに身を捧げ 高き尊き聖恩に
   答えをまつれる隊長の 終焉の床に露寒し
  
負いし痛手の深ければ 情け手厚き軍曹の
   心尽くしも甲斐なくて 英魂ここに留まらねど
   中佐は過去を顧みて 終焉の笑みを洩らしけん
  
君身を持して厳なれば 挙動に規矩を失わず
   職を奉じて忠なれば 功績常に衆を抜き
   君まじわりて信なれば 人は鑑と敬いぬ
  
十一 忠肝義胆才秀で 勤勉刻苦学すぐれ
   情けは深く勇を兼ね 花も実もある武士の
   君が終焉の言蔵には 千歳誰か泣かざらん
  
十二 花潔く散り果てて 護国の鬼と盟てし
   君軍神と祀られぬ 忠魂義魄後の世の
   人の心を励まして 武運は永久に尽きざらん
  
十三 国史伝うる幾千年 ここに征露の師を起こす
   史ひもときて見るごとに  わが日の本の国民よ
   花橘の薫りにも 偲べ群臣中佐をば

 

  坂元少佐(赤城の奮戦)
  作曲:納所弁次郎
  作詩:佐々木信綱

煙か波かはた雲か 遥かに見ゆる薄煙
   海原遠く眺むれば 嬉しや正に敵の艦
  
溢るる勇気抑えつつ 待ちに待ちたる敵の艦
   砕きて撃ちて黄海の 藻屑となさん時の間に
  
轟く砲の音凄く 逆巻く波の音荒く
   海洋島の沖つ辺に 激しき戦い起りたり
  
艦の中にも赤城艦 艦は小さくか弱きも
   鉄より堅き心もて 士卒は艦を進むなり
  
砕けや撃てや敵の艦 残る艦無くならんまで
   胸をば楯に身を的に 進めや撃ての声高し
  
弱きを狙う敵艦は 左に右に寄せ来るを
   続きて放つ我が砲に 敵の甲板人も無し
  
飛び来し敵の砲弾は 音凄まじく砕けたり
   今までありし艦長の 姿は見えずなりにけり
  
砕けや撃ての号令は 士卒の耳に残れども
   今まで立ちし艦長の 姿は見えずなりにけり
  
か弱き艦を進めつつ 優れる艦と戦いて
   栄えある戦に艦長は 栄えある死をば遂げにけり
  
その身はよしや朽ちるとも 誉れは朽ちじ千代八千代
   赤城の艦の名と共に 赤き心ぞ歌われん

  爆弾三勇士
  作曲:山田耕筰
  作詩:中野力

戦友の屍を越えて 突撃す御国の為に
   大君に捧し命 ああ忠烈肉弾三勇士
  
廟行鎮鉄条網を 爆破せん男子の意気ぞ
   身に負える任務は重し ああ壮烈肉弾三勇士
  
爆薬筒担いて死地に 躍進す敵塁近し
   轟然と大地は揺らぐ ああ勇猛肉弾三勇士
  
突撃路今こそ拓け 日章旗喚声挙がる
   煙幕の消え去る上に ああ軍神肉弾三勇士

  父よあなたは強かった
  作曲:明本京静
  作詩:福田節

父よあなたは 強かった
   兜(かぶと)も焦がす 炎熱を
   敵の屍(かばね)と ともに寝て
   泥水すすり 草を噛み
   荒れた山河を 幾千里
   よくこそ撃って 下さった
  
夫よあなたは 強かった
   骨まで凍る 酷寒を
   背も届かぬ クリークに
   三日も浸かって いたとやら
   十日も食べずに いたとやら
   よくこそ勝って 下さった
  
兄よ弟よ ありがとう
   弾丸(たま)も機雷も 濁流も
   夜を日に進む 軍艦旗
   名も荒鷲の 羽ばたきに
   残る敵機の 影もなし
   よくこそ遂げて 下さった
  
友よわが子よ ありがとう
   誉(ほまれ)の 傷の物語
   何度聞いても 目がうるむ
   あの日の戦に 散った子も
   今日は九段の 桜花
   よくこそ咲いて 下さった
  
ああ御身(おんみ)らの 功(いさお)こそ
   一億民(たみ)の まごころを
   ひとつに結ぶ 大和魂(だま)
   いま大陸の 青空に
   日の丸高く 映えるとき
   泣いて拝む 鉄兜
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  

  廣瀬中佐
  作詞作曲不詳

轟く砲音(つつおと) 飛来る弾丸(だんがん)
   荒波洗ふ デッキの上に
   闇を貫く 中佐の叫び
   「杉野は何処(いずこ) 杉野は居ずや」
  
   船内隈なく 尋ぬる三度(みたび)
   呼べど答へず さがせど見へず
   船は次第に 波間に沈み
   敵弾いよいよあたりに繁し
  
   今はとボートに 移れる中佐
   飛来る弾丸(たま)に 忽ち失せて
   旅順港外 恨みぞ深き
   軍神廣瀬と その名残れど

廣瀬中佐には、以下の局もあります
  廣瀬中佐
  作曲:納所弁次郎
  作詞:大和田建樹
一言一行いさぎよく 日本帝国軍人の
   鑑を人に示したる 廣瀬中佐は死にたるか

  廣瀬中佐
  作曲:納所弁次郎
  作詞:大和田建樹
神州男子数あれど 男子の内の真男子
   世界にしめす鑑とは 廣瀬中佐のことならん

  軍神廣瀬中佐
  作曲:田村虎蔵
  作詞:大和田建樹
生きては敵を恐れしめ 死しては軍の神となる
   廣瀬中佐の功名は 武人のかがみ国の花

  アッツ島血戰勇士顕彰國民歌
  作詞作曲:山田耕筰

刃も凍る 北海の
   御楯と立ちて 二千餘士(余士)
   精鋭こぞる アッツ島
   山崎大佐 指揮をとる
   山崎大佐 指揮をとる
  
時これ 五月十二日
   曉こむる 霧ふかく
   突如と襲ふ 敵二萬
   南に邀(むか)へ 北に撃つ
   南に邀へ 北に撃つ
  
陸海 敵の猛攻に
   わが反撃は 火を吐けど
   巨彈は落ちて 地をえぐり
   山容 ために改まる
   山容 ために改まる
  
血戰死鬪 十八夜
   烈々の士氣 天を衝き
   敵六千は 屠れども
   我また多く 失へり
   我また多く 失へり
  
火砲はすべて 砕け飛び
   僅かに 銃劍 手榴彈
   寄せ來る敵と 相撃ちて
   血潮は花と 雪を染む
   血潮は花と 雪を染む
  
一兵の援 一彈の
   補給を乞はず 敵情を
   電波に託す 二千キロ
   波頭に映る 星寒し
   波頭に映る 星寒し
  
他に策なきに あらねども
   武名は やはか汚すべき
   傷病兵は 自決して
   魂魄(こんぱく) ともに戰へり
   魂魄 ともに戰へり
  
殘れる勇士 百有餘(余)
   遙かに皇居 伏し拜み
   敢然 鬨と諸共(もろとも)に
   敵主力へと 玉砕す
   敵主力へと 玉砕す
  
あゝ 皇軍の神髄に
   久遠(くをん)の大義 生かしたる
   忠魂のあと 受け繼ぎて
   撃ちてし止まむ 醜(しこ)の仇
   撃ちてし止まむ 醜の仇

  出征兵士を送る歌
我が大君に 召されたる
   命栄えある 朝ぼらけ
   称えて送る 一億の
   歓呼は高く 天を衝く
   いざ征け 兵(つわもの) 日本男児
  
華と咲く身の 感激を
   戎衣の胸に 引き締めて
   正義の軍(いくさ) 行くところ
   たれか阻まん その歩武を
   いざ征け 兵(つわもの) 日本男児
  
輝く御旗 先立てて
   越ゆる勝利の 幾山河
   無敵日本の 武勲詩を
   世界に示す 時ぞ今
   いざ征け 兵(つわもの)
   日本男児
  
守る銃後に 憂いなし
   大和魂 揺ぎ無き
   國の固めに 人の和に
   大磐石の この備え
   いざ征け 兵(つわもの) 日本男児
  
嗚呼萬世の 大君に
   水漬き草生す 忠烈の
   誓い致さん 秋(とき)到る
   勇ましいかな この首途(かどで)
   いざ征け 兵(つわもの) 日本男児
  
父祖の血潮に 色映ゆる
   國の誉れの 日の丸を
   世紀の空に 燦然と
   揚げて築けや 新亜細亜
   いざ征け 兵(つわもの) 日本男児

  日本海海戦(文部省唱歌)
敵艦見えたり近づきたり 皇国の興廃ただこの一挙
   各員奮励努力せよと 旗艦のほばしら信号揚る
   みそらは晴るれど風立ちて 対馬の沖に波高し
  
主力艦隊前を抑え 巡洋艦隊後に迫り
   袋の鼠と囲み撃てば 見る見る敵艦乱れ散るを
   水雷艇隊駆逐隊 逃しはせじと追いて撃つ
  
東天赤らみ夜霧晴れて 旭日輝く日本海上
   今はや遁るるすべもなくて 撃たれて沈むも降るもあり
   敵国艦隊全滅す 帝国万歳万万歳

  日本海海戦(海路一万五千余浬)
  作曲:大和田建樹
  作詩:中野力
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海路一万五千余浬 万苦を忍び東洋に
   最後の勝敗決せんと 寄せ来し敵こそ健気なれ
  
時維(こ)れ三十八年の 狭霧(さぎり)も深き五月末(さつきすえ)
   敵艦見ゆとの警報に 勇み立ちたる我が艦隊
  
早くも根拠地後にして 旌旗(せいき)堂々荒波を
   蹴立てて進む日本海 頃しも午後の一時半
  
霧の絶間(たえま)を見渡せば 敵艦合せて約四十(しじゅう)
   二列の縦陣作りつつ 対馬の沖にさしかかる
  
戦機今やと待つ程に 旗艦に揚がれる信号は
   「皇国(みくに)の興廃この一挙  各員奮励努力せよ」
  
千載不朽(せんざいふきゅう)の命令に 全軍深く感激し
   一死奉公この時と 士気旺盛に天を衝(つ)く
  
第一第二戦隊は 敵の行手を押さえつつ
   その他の戦隊後より 敵陣近く追い迫る
  
敵の先頭「スウォーロフ(スワロフ)」の 第一弾を初めとし
   彼我の打ち出す砲声に 天地も崩るる斗(ばか)りなり
  
水柱白く立ちのぼり 爆煙黒くみなぎりて 両軍死傷数知れず
   戦(たたかい)愈々(いよいよ)たけなわに 両軍死傷数知れず
  
されど鍛えに鍛えたる 吾が艦隊の鋭鋒に
   敵の数艦は沈没し 陣形乱れて四分五裂(しぶごれつ)
  
十一 いつしか日は暮れ水雷の 激しき攻撃絶間なく
   またも数多(あまた)の敵艦は 底の藻屑と消えうせぬ
  
十二 明くる晨(あした)の晴天に 敵を索(もと)めて行き行けば
   鬱稜島(うつりょうとう)のほとりにて 白旗掲げし艦(ふね)四隻
  
十三 副将ここに降を乞い 主将は我に捕らわれて
   古今の歴史に例(ためし)なき 大戦功を収めけり
  
十四昔は元軍(げんぐん)十余万 筑紫の海に沈めたる
   祖先に勝る忠勇を 示すも君の大御陵威(おおみいつ)
  
十五 国の光を加えたる 我が海軍の誉れこそ
   千代に八千代に曇(くもり)なき 朝日と共に輝かめ

  日本海海戦(明治三十八の年)
  作者不詳
 
明治三十八の年 頃しも五月(さつき)の末つ方
   濛気(もうき)も深き暁に 済州(さいしゅう)島の沖遥か
  
敵艦今や寄せ来ぬと 物見の艦の信号に
   脾肉(ひにく)の嘆を漏しつつ 待ちに待ちたる我軍は
  
天の与(あたえ)と雀躍(じゃくやく)し 舳艫(じくろ)銜(ふく)んで錨抜く
   御国の安危此(この)一挙(いっきょ) 掛りて吾等大丈夫(ますらお)の
  
肩に有りぬとふるい立つ 戦士三万意気高し
   荒(すさ)ぶ風浪何の其の 醜虜(しゅうりょ)殲滅(せんめつ)する迄は
  
再び生きて帰らじと 勇気りんりん進む間に
   正午も過ぎて早や半時 霞める沖の島の辺(へ)に
  
煤煙一つ又二つ 次第に見ゆる数十条
   旗艦スワロフ始めとし 続く敵艦約四十
  
二列縦陣厳(おごそ)かに 浪を蹴立てて進み来つ
   やがて打出す砲声は 殷々(いんいん)轟々(ごうごう)凄(すさま)じく
  
砲煙天に漲(みなぎ)りて 白日(はくじつ)為に光なく
   奮戦茲(ここ)に数時間 我勇猛の砲撃に
  
今や乱るる敵の陣 或は沈み又は焼け
   残れるものは傷つきて 戦闘力も絶々(たえだえ)に
  
逃れかねてぞためらえる 時しもあれや日は落ちて
   夜色悽愴(せいそう)気は熟し 襲う水雷駆逐艦
  
十一 敵陣近く肉薄し 力の限り追いうてば
   闇にまぎれて乱れ散る 秋の木の葉の其れの如(ごと)
  
十二 明くれば二十八日に 逃(のが)れ遅れし敵四隻
   砲門砕け舵折れて あわれや揚(あ)ぐる降参旗
  
十三 勇気絶倫(ぜつりん)名も高き 敵帥ロゼスト提督も
   鬱陵(うつりょう)島の島影に 俘虜(とりこ)となりし浅間しさ
  
十四 辛苦(しんく)惨憺(さんたん)幾月(つき)か 万里の波濤を凌(しの)ぎつつ
   極東遥か進み来し かの強勇のバルチクも
  
十五 大和(やまと)武夫(たけお)に敵し得で 目指す港を前に見て
   沈みつ焼けつ奪われつ 消えて哀(あわ)れや水の泡
  
十六 山は青々(せいせい)水清き 秋津島根に冦(あだ)をなす
   醜虜は如何に猛(たけ)くとも などて敵せん大和魂(やまとだま
  
十七 やがて東海波荒(すさ)ぶ 底の藻屑と消え果てん
   帝国万歳万々歳 神州万歳万々歳

  日本海軍
  作曲:小山作之助
  作詩:大和田建樹

四面海もて囲まれし 我が「敷島」の「秋津洲(あきつしま)」
   外(ほか)なる敵を防ぐには 陸に砲台海に艦(ふね)
  
屍(かばね)を浪(なみ)に沈めても 引かぬ忠義の丈夫(ますらお)が
   守る心の「甲鉄艦 いかでかたやすく破られん
  
名は様々に分かれても 建つる勲は「富士」の嶺の
   雪に輝く「朝日」かげ 「扶桑」の空を照らすなり
  
君の御稜威(みいつ)の「厳島」  「高千穂」「高雄」「高砂」と
   仰ぐ心に比べては 「新高」山もなお低し
  
「大和」魂一筋に 国に心を「筑波」山
   「千歳」に残す芳名(ほうめい)は 「吉野」の花もよそならず
  
「千代田」の城の千代かけて 色も「常磐」の「松島」は
   雪にも枯れぬ「橋立」の 松諸共に頼もしや
  
海国男児が「海門」を 守る心の「赤城」山
   「天城」「葛城」「摩耶」「笠置(かさぎ)」 浮かべて安し我が国は
  
「浪速(なにわ)」の梅の芳(かんば)しく 「龍田」の紅葉美しく
   なおも「和泉」の潔(いさぎよ)き 誉は「八島」の外までも
  
「朧(おぼろ)」月夜は「春日」なる 「三笠」の山にさし出でて
   「曙」降りし「春雨」の 霽(は)るる嬉しき朝心地(ごこち)
  
「朝霧」晴れて「朝潮」の 満ちくる「音羽」「須磨」「明石」
   忘るなかるる風景も よそに優れし我が国を
  
十一 事ある時は武士(もののふ)の 身も「不知火」の「筑紫」潟
   尽(つく)せや共に「千早」ぶる 神の守りの我が国に
  
十二 「吾妻」に広き「武蔵」野も 「宮古」となりて栄えゆく
   我が「日進」の君が代は 「白雲」蹴立つる「天竜」か
  
十三 大空高く舞い翔(かけ)る 「隼」「小鷹」「速鳥(はやとり)」の
   迅(はや)き羽風に掃(はら)われて 散る「薄雲」は跡もなし
  
十四 鳴る「雷(いかずち)」も「電(いなずま)」も ひと「村雨」の間にて
   「東雲(しののめ)」霽(は)るる「叢雲(むらくも)」に 交じる「浅間」の朝煙
  
十五 今も「霞(かすみ)」の「八雲」たつ 「出雲」「八重山」「比叡」「愛宕」
   「磐手(いわて)」「磐城(いわき)」「鳥海」山 それより堅き我が海軍
  
十六 「対馬」「金剛」「宇治」「初瀬」 みなわが歴史のあるところ
   「豊橋」かけて「大島」に 渡る利器こそこの船よ
  
十七 敵艦近く現われば 「陽炎」よりも速やかに
   水雷艇を突き入れて ただ「夕霧」と砕くべし
  
十八 「暁」寒き山颪(やまおろし) 「漣(さざなみ)」たてて「福竜」の
   群(むらが)る敵をしりぞけん 勲はすべて我にあり
  
十九 護れや日本帝国を 万万歳の後までも
   「鎮遠」「済遠(さいえん)」「平遠」艦 「鎮東」「鎮西」「鎮南」艦
  
二十 輝く国旗さしたてて 海外万里の外までも
   進めや「鎮北(ちんぼく)」「鎮中(ちんちゅう)」艦 進めや「鎮辺(ちんべい)」「操江(そうこう)」艦 敵の将軍 ステッセル

  水師営の会見
  作曲:岡野貞一
  作詩:佐々木信綱

旅順(りょじゅん)開城(かいじょう) 約成(やくな)りて
   敵の将軍 ステッセル
   乃木大将と会見の 所はいずこ 水師営
  
庭に一本(ひともと) 棗(なつめ)の木
   弾丸あとも いちじるく
   くずれ残れる 民屋(みんおく)に ぞ相(あい)見る 二将軍
  
乃木大将は おごそかに
   御(み)めぐみ深き 大君(おおぎみ)の
   大(おお)みことのり 伝(つと)うれば
   彼(かれ)かしこみて 謝しまつる
  
昨日(きのう)の敵は 今日の友
   語ることばも うちとけて
   我はたたえつ かの防備
   かれは称えつ わが武勇
  
かたち正して 言い出でぬ
   『此の方面の戦闘に
   二子(にし)を失い給(たま)いつる
   閣下の心如何にぞ』と
  
『二人の我が子それぞれに
   死所を得たるを喜べり
   これぞ武門(ぶもん)の面目(めんぼく)』と
   大将答(こたえ)力あり
  
両将昼食(ひるげ)共にして
   なおもつきせぬ物語 『我に愛する良馬(りょうば)あり
   今日の記念に献ずべし』
  
『厚意謝するに余りあり
   軍のおきてに従いて
   他日我が手に受領せば
   ながくいたわり養わん』
  
『さらば』と握手ねんごろに
   別れて行(ゆ)くや右左(みぎひだり
   砲音(つつおと)絶えし砲台(ほうだい)に
   ひらめき立てり 日の御旗(みはた)

  人を戀ふる歌
  作詩:与謝野鉄幹
妻(つま)をめとらば才たけて 顔うるはしくなさけある
   友をえらばば書を讀んで 六分の侠氣四分の熱
  
戀のいのちをたづぬれば 名を惜むかなをとこゆゑ
   友のなさけをたづぬれば 義のあるところ火をも踏む
  
くめやうま酒うたひめに をとめの知らぬ意氣地あり
   簿記(ぼき)の筆とるわかものに まことのをのこ君を見る
  
あゝわれコレリッヂの奇才なく バイロン、ハイネの熱なきも
   石をいだきて野にうたふ 芭蕉のさびをよろこばず
  
人はわらへな業平(なりひら)が 小野の山ざと雪を分け
   夢かと泣きて齒がみせし むかしを慕ふむらごころ
  
見よ西北(にしきた)にバルガンの それにも似たる國のさま
   あやふからずや雲裂けて 天火(てんくわ)ひとたび降(ふ)らん時
  
妻子(つまこ)をわすれ家をすて 義のため耻をしのぶとや
   遠くのがれて腕(うで)を摩す ガリバルヂイや今いかん
  
玉をかざれる大官(たいくわん)は みな北道(ほくどう)の訛音(なまり)あり
   慷慨(かうがい)よく飲む三南(さんなん)の 健兒(けんじ)は散じて影もなし
  
四たび玄海の浪をこえ 韓(から)のみやこに來てみれば
   秋の日かなし王城や むかしにかはる雲の色
  
あゝわれ如何にふところの 劍(つるぎ)は鳴(なり)をしのぶとも
   むせぶ涙を手にうけて かなしき歌の無からんや
  
十一 わが歌ごゑの高ければ 酒に狂ふと人は云へ
   われに過ぎたる希望(のぞみ)をば 君ならではた誰か知る
  
十二 「富士山」あやまらずやは眞ごころを 君が詩いたくあらはなる
   むねんなるかな燃(も)ゆる血の 價すくなきすゑの世や
  
十三 おのづからなる天地(あめつち)を 戀ふるなさけは洩すとも
   人を罵り世をいかる はげしき歌を秘めよかし
  
十四 口をひらけば嫉みあり 筆をにぎれば譏りあり
   友を諌めに泣かせても 猶ゆくべきか絞首臺(かうしゆだい)
  
十五 おなじ憂ひの世にすめば 千里のそらも一つ家
   おのが袂と云ふなかれ やがて二人(ふたり)のなみだぞや」
  
十六 はるばる寄せしますらをの うれしき文(ふみ)を袖にして
   けふ北漢の山のうへ 駒たてて見る日の出づる方(かた)

  黄海の大捷
頃は菊月半ば過ぎ 我が帝国の艦隊は
   大同江たいどうこうを艦出ふなでして 敵の在処ありかを探りつつ
  
目指す所は大孤山たいこさん 波を蹴立てて行く路みちに
   海羊島のほとりにて 彼の北洋の艦隊を
  
  
見るより早く開戦し あるいは沈め又は焼く
   我が砲撃に彼の艦ふねは あと白波と消え失せり
  
忠勇義烈の戦たたかいに 敵の気勢を打ちひしぎ
   我が日の旗を黄海の 波路なみじに高く輝かし
  
いさおをなして勇ましく 各艦共に挙げ競う
   凱歌は四方よもに響きけり 凱歌は四方に響きけり

  紀元節
雲に聳ゆる高千穂の 高根おろしに草も木も
   なびきふしけん大御世を 仰ぐ今日こそ楽しけれ
   海原なせる埴安の 池のおもより猶ひろき
   めぐみの波に浴みし世を 仰ぐ今日こそ楽しけれ
  
天つひつぎの高みくら 千代よろず世に動きなき
   もとい定めしその神を 仰ぐ今日こそ楽しけれ
  
空にかがやく日のもとの よろずの国にたぐいなき
   国のみはしらたてし世を 仰ぐ今日こそ楽しけれ

  明治節
亜細亜の東日出づる処 聖の君の現れまして
   古き天地とざせる霧を 大御光に隈なくはらい
   教あまねく道明らけく  治めたまえる御代尊
恵の波は八洲に余り 御稜威の風は海原越えて
   神の依させる御業を弘め 民の栄行く力を展ばし
   外つ国国の史にも著く 留めたまえる御名畏
秋の空すみ菊の香高き 今日のよき日を皆ことほぎて
   定めましける御憲を崇め 諭しましける詔勅を守り
   代代木の森の代代長えに 仰ぎまつらん大帝

  紀元二千六百年
  作曲:森義八郎
  作詩:増田好生

金鵄(きんし)輝く日本の 榮(はえ)ある光身にうけて
   いまこそ祝へこの朝(あした) 紀元は二千六百年
   あゝ 一億の胸はなる
  
歡喜あふるるこの土を しつかと我等ふみしめて
   はるかに仰ぐ大御言(おほみこと) 紀元は二千六百年
   あゝ肇國(ちょうこく)の雲青し
  
荒(すさ)ぶ世界に唯一つ ゆるがぬ御代に生立ちし
   感謝は清き火と燃えて 紀元は二千六百年
   あゝ報國の血は勇む
  
潮ゆたけき海原に 櫻と富士の影織りて
   世紀の文化また新た 紀元は二千六百年
   あゝ燦爛(さんらん)のこの國威
  
正義凛(りん)たる旗の下 明朗アジヤうち建てん
   力と意氣を示せ今 紀元は二千六百年
   あゝ彌榮(いやさか)の日はのぼる

  紀元二千六百年頌歌
  作曲・作詩:東京音楽学校

遠すめろぎのかしこくも
   はじめたまいしおお大和(やまと)
   天つ日嗣(ひつぎ)のつぎつぎに
   御代(みよ)しろしめすとうとさよ
   仰げば遠し皇国の
   紀元は二千六百年
  
ああ人草(ひとくさ)にい照る日の
   光あまねき大八洲(おおやしま)
   春のさかりをさく花の
   薫(にお)うがごときゆたかさよ
   仰げば遠し皇国の
   紀元は二千六百年
  
大わたつみの八潮路(やしおじ)の
   めぐり行きあう八紘(あめのした)
   ひじりのみ業(わざ)うけもちて
   宇(いえ)とおおわんかしこさよ
   仰げば遠し皇国の
   紀元は二千六百年