軍歌集-1

若鷲の歌    九段の母    軍艦行進曲(軍艦マーチ)    同期の桜    歩兵の本領    麦と兵隊    海ゆかば    敵は幾万
   露営の歌    愛国行進曲    日本陸軍    戦友    我は海の子    荒鷲の歌                                                               
燃ゆる大空    ラバウル海軍航空隊    空の神兵    ラバウル小唄    雪の進軍    勇敢なる水兵                           
討匪行    明日はお立ちか    ああ紅の血は燃ゆる    暁に祈る    蛍の光                                                            

軍歌集-2       軍歌集-3       ♪♪♪


  若鷲の歌
   若い血潮の  予科練の
      七つボタンは  桜に錨
      今日も飛ぶ飛ぶ  霞ヶ浦にゃ
      でっかい希望の  雲が湧く
   燃える元気な  予科練の
      腕はくろがね  心は火玉
      さっと巣立てば  荒海越えて
      行くぞ敵陣  なぐり込み
   仰ぐ先輩  予科練の
      手柄聞くたび  血潮が疼く
      ぐんと練れ練れ  攻撃精神
      大和魂にゃ  敵はない
   生命惜しまぬ  予科練の
      意気の翼は  勝利の翼
      見事轟沈  した敵艦を
      母へ写真で  送りたい

  九段の母
   上野駅から  九段まで
      勝手しらない  じれったさ
      杖をたよりに  一日がかり
      せがれ来たぞや  会いに来た
   空をつくよな  大鳥居
      こんな立派な  おやしろに
      神と祀られ  もったいなさよ
      母は泣けます  うれしさに
   両手あわせて  ひざまづき
      拝むはずみの  お念仏
      あっと気づいて  うろたえました
      せがれ許せよ  田舎者
   鳶が鷹の子  産んだよで
      今じゃ果報が  身に余る
      金鵄勲章が  見せたいばかり
      逢いに来たぞや  九段坂

  軍艦行進曲(軍艦マーチ)
      守るも攻むるも黒鐵(くろがね)の
      浮かべる城(しろ)ぞ頼(たの)みなる
      浮かべるその城(しろ)日(ひ)の本(もと)の
      皇國(みくに)の四方(よも)を守(まも)るべし
      眞鐵(まがね)のその艦(ふね)日の本に
      仇(あだ)なす國(くに)を攻(せ)めよかし
      石炭(いわき)の煙(けむり)は大洋(わだつみ)の
      龍(たつ)かとばかり靡(なび)くなり
      彈(たま)撃(う)つ響(ひび)きは雷(いかづち)の
      聲(こゑ)かとばかり響(どよ)むなり
      萬里(ばんり)の波濤(はとう)を乘り越えて
      皇國(みくに)の光(ひかり)輝かせ

  同期の桜
貴様と俺とは  同期の桜
   同じ兵学校の  庭に咲く
   咲いた花なら  散るのは覚悟
   みごと散りましょ  国のため
貴様と俺とは  同期の桜
   同じ兵学校の  庭に咲く
   血肉分けたる  仲ではないが
   なぜか気が合うて  別れられぬ
貴様と俺とは  同期の桜
   仰いだ夕焼け  南の空に
   未だ還らぬ  一番機
貴様と俺とは  同期の桜
   同じ航空隊の 庭に咲く
   あれほど誓った その日も待たず
   なぜに死んだか 散ったのか
貴様と俺とは  同期の桜
   離れ離れに 散ろうとも
   花の都の 靖国神社
   春の梢に 咲いて会おう

  歩兵の本領
萬朶の櫻か襟の色  花は吉野に嵐吹く
   大和男子と生まれなば  散兵線の花と散れ
尺餘の銃は武器ならず  寸餘の剣何かせんく
   知らずやここに二千年  鍛へ鍛へし大和魂
軍旗守る武士は  總てその数(すう)二十万
   八十餘ヶ所に屯(たむろ)して  武装は解かじ夢にだも
千里東西波越へて  我に仇なす國あらば
   港を出てん輸送船  暫し守れや海の人
敵地に一歩我れ踏めば  軍(いくさ)の主兵はここにあり
   最後の決は我任務  騎兵砲兵協同(けふどう)せよ
アルプス山を踏破せし  歴史は古く雪白し
   奉天戦の活動は  日本歩兵の華と知れ
携帯口糧あるならば  遠く離れて三日四日
   曠野千里に亙るとも  散兵線に秩序あり
退くことは我知らず  見よや歩兵の操典を
   歩兵の戦は射撃にて  敵をひるませ其隙に
前進前進又前進  肉弾とどく處まで
   我が一軍の勝敗は  突撃最後の数分時
歩兵の本領茲にあり  ああ勇ましの我兵科
   會心の友よさらばいざ  共に励まん我任務

  麦と兵隊
徐州徐州と  人馬は進む
   徐州居よいか  住みよいか
   洒落た文句に  振り返りゃ
   お国訛(なま)りの  おけさ節
   ひげがほほえむ  麦畠
友を背にして  道なき道を
   行けば戦野は  夜の雨
   「すまぬすまぬ」を  背中に聞けば
   「馬鹿を云うな」と  また進む
   兵の歩みの  頼もしさ
腕をたたいて  遥かな空を
   仰ぐ眸(ひとみ)に  雲が飛ぶ
   遠く祖国を  はなれ来て
   しみじみ知った  祖国愛
   友よ来て見よ  あの雲を
行けど進めど  麦また麦の
   波の深さよ  夜の寒さ
   声を殺して  黙々と
   影を落として  粛々と
   兵は徐州へ  前線へ

  海ゆかば
海行(ゆ)かば 水漬(みづ)く屍(かばね)
山行(ゆか)ば 草生(む)す屍
大君(おおきみ)の 辺(へ)にこそ死なめ
かへりみはせじ

  敵は幾万
敵(てき)は幾万(いくまん)ありとても
   すべて烏合(うごう)の勢(せい)なるぞ
   烏合の勢にあらずとも
   味方(みかた)に正しき道理(どうり)あり
   邪(じゃ)はそれ正(せい)に勝(か)ちがたく
   直(ちょく)は曲(きょく)にぞ勝栗(かちぐり)の
   堅き心(こころ)の一徹(いってつ)は
   石(いし)に矢(や)の立(た)つためしあり
   石に立つ矢のためしあり
   などて恐(おそ)るる事(こと)やある
   などてたゆとう事やある
風(かぜ)に閃(ひらめ)く連隊旗(れんたいき)
   記紋(しるし)は昇(のぼ)る朝日子(あさひこ)よ
   旗(はた)は飛びくる弾丸(だんがん)に
   破るることこそ誉れ(ほまれ)なれ
   身(み)は日(ひ)の本(もと)の兵士(つわもの)よ
   旗(はた)にな愧(は)じそ進め(すすめ)よや
   斃(たお)るるまでも進めよや
   裂(さ)かるるまでも進めよや
   旗にな愧(は)じそ耻(は)じなせそ
   などて恐るる事やある
   などてたゆとう事やある
破れて逃(に)ぐるは国(くに)の耻(はじ)
   進みて死(し)ぬるは身(み)の誉(ほま)れ
   瓦(かわら)となりて残る(のこる)より
   玉(たま)となりつつ砕け(くだけ)よや
   畳(たたみ)の上(うえ)にて死ぬことは
   武士(ぶし)の為(な)すべき道(みち)ならず
   骸(むくろ)を馬蹄(ばてい)にかけられつ
   身(み)を野晒(のざらし)になしてこそ
   世(よ)に武士(もののふ)の義(ぎ)といわめ
   などて恐るる事やある
   などてたゆとう事やある
  
   
   

        

  露営の歌
勝って来るぞと 勇ましく
誓つて故郷(くに)を 出たからは
手柄(てがら)たてずに 死なれよか
進軍ラツパ 聞くたびに
瞼(瞼)に浮かぶ 旗の波
土も草木も 火と燃える
果てなき荒野(こうや) 踏みわけて
進む日の丸 鉄兜
馬のたてがみ なでながら
あすの生命(いのち)を 誰(だれ)か知る

  愛国行進曲
見よ東海の空あけて
   旭日(きょくじつ)高く輝けば
   天地の正気(せいき)溌剌(はつらつ)と
   希望は躍る大八洲(おおやしま)
   おお晴朗の朝雲に
   聳(そび)ゆる富士の姿こそ
   金甌(きんおう)無欠揺るぎなき
   わが日本の誇りなれ
起(た)て一系の大君(おおきみ)を
   光と永久(とわ)に戴(いただき)きて
   臣民われら皆共に/td>
   御稜威(みいつ)に副(そ)わん大使命
   往(ゆ)け八紘(はっこう)を宇(いえ)となし
   四海の人を導きて
   正しき平和うち建てん
   理想は花と咲き薫る
いま幾度かわが上に
   試練の嵐哮(たけ)るとも
   断固と守れその正義
   進まん道は一つのみ
   ああ悠遠の神代(かみよ)より
   轟(とどろく)く歩調うけつぎて
   大行進の行く彼方
   皇国つねに栄えあれ

  日本陸軍
出征 天に代わりて不義を討つ
   忠勇無双の我が兵は
   歓呼の声に送られて
   今ぞ出で立つ父母の国
   勝たずば生きて還(かえ)らじと
   誓う心の勇ましさ
斥候兵 或いは草に伏し隠れ
   或いは水に飛び入りて
   万死恐れず敵情を
   視察し帰る斥候兵
   肩に懸(かか)れる一軍の
   安危はいかに重からん
工兵 道なき道に道をつけ
   敵の鉄道うち毀(こぼ)ち
   雨と散りくる弾丸を
   身に浴びながら橋かけて
   我が軍渡す工兵の功労何にか譬(たと)うべき
砲兵 鍬(くわ)取る工兵助けつつ
   銃(つつ)取る歩兵助けつつ
   敵を沈黙せしめたる
   我が軍隊の砲弾は
   放つに当たらぬ方もなく
   その声天地に轟(とどろ)けり
歩兵 一斉射撃の銃(つつ)先に
   敵の気力を怯(ひる)ませて
   鉄条網もものかはと
   躍り越えたる塁上に
   立てし誉れの日章旗
   みな我が歩兵の働きぞ
騎兵 撃たれて逃げゆく八方の
   敵を追い伏せ追い散らし
   全軍残らずうち破る
   騎兵の任の重ければ
   我が乗る馬を子のごとく
   労(いた)わる人もあるぞかし
輜重兵 砲工兵騎の兵強く
   連戦連捷せしことは
   百難冒(おか)して輸送する
   兵糧(ひょうろう)輜重のたまものぞ
   忘るな一日遅れなば
   一日たゆとう兵力を
衛生兵 戦地に名誉の負傷して
   収容せらるる将卒の
   命と頼むは衛生隊
   ひとり味方の兵のみか
   敵をも隔てぬ同仁の
   情けよ思えば君の恩
凱旋 内には至仁の君いまし
   外には忠武の兵ありて
   我が手に握りし戦捷の
   誉れは正義のかちどきぞ
   謝せよ国民大呼(たいこ)して
   我が陸軍の勲功(いさおし)を
勝利(平和) 戦雲東におさまりて
   昇る朝日ともろともに
   輝く仁義の名も高く
   知らるる亜細亜の日の出国
   光めでたく仰がるる
   時こそ来ぬれいざ励め

  戦友
ここはお国を何百里(なんびゃくり)
   離れて遠き満洲(まんしゅう)の
   赤い夕日に照らされて
   友は野末(のずえ)の石の下
思えばかなし昨日(きのう)まで
   真先(まっさき)かけて突進し
   敵を散々(さんざん)懲(こ)らしたる
   勇士はここに眠れるか
ああ戦(たたかい)の最中(さいちゅう)に
   隣りに居(お)ったこの友の
   俄(にわ)かにはたと倒れしを
   我はおもわず駈け寄って
軍律きびしい中なれど
   これが見捨てて置かりょうか
   「しっかりせよ」と抱き起し
   仮繃帯(かりほうたい)も弾丸(たま)の中
折から起る突貫(とっかん)に
   友はようよう顔あげて
   「お国の為だかまわずに
   後(おく)れてくれな」と目に涙
あとに心は残れども
   残しちゃならぬこの体(からだ)

  我は海の子
我は海の子白浪の さわぐいそべの松原に
   煙たなびくとまやこそ 我がなつかしき住家なれ
生まれてしほに浴して 浪を子守の歌と聞き
   千里寄せくる海の氣を 吸ひてわらべとなりにけり
高く鼻つくいその香に 不斷の花のかをりあり
   なぎさの松に吹く風を いみじき樂と我は聞く
丈餘のろかい操りて 行手定めぬ浪まくら
   百尋千尋海の底 遊びなれたる庭廣し
幾年こゝにきたへたる 鐵より堅きかひなあり
   吹く鹽風にKみたる はだは赤銅さながらに
浪にたゞよふ氷山も 來らば來れ恐れんや
   海まき上ぐるたつまきも 起らば起れ驚かじ
いで大船を乘出して 我は拾はん海の富
   いで軍艦に乘組みて 我は護らん海の國

  荒鷲の歌
見たか銀翼この勇姿  日本男児が精込めて
   作って育てた我が愛機  空の守りは引き受けた
   くるならきてみろ赤とんぼ  ブンブン荒鷲ブンと飛ぶぞ
誰がつけたか荒鷲の  名にも恥じないこの力
   霧も嵐もなんのその  重い爆弾抱え込み
   南京くらいは一跨ぎ  ブンブン荒鷲ブンと飛ぶぞ
金波銀波の海越えて  雲らぬ月こそわが心
   正義の日本知ったかと  今宵また飛ぶ荒鷲よ
   御苦労しっかり頼んだぜ  ブンブン荒鷲ブンと飛ぶぞ
翼に日の丸乗り組みは 大和魂の持ち主だ
   敵機はあらましつぶしたが あるなら出てこいおかわりこい
   プロペラばかりか腕もなる ブンブン荒鷲ブンと飛ぶぞ
  
  
  
  
  
  
   
   

        

  燃ゆる大空
燃ゆる大空 気流だ 雲だ
   騰(あが)るぞ翔けるぞ 迅風(はやて)の如く
   爆音正しく 高度を持して
   輝くつばさよ 光華(ひかり)ときそえ
   航空日本 空ゆくわれら
機翼どよもす 嵐だ 雨だ
   きらめくプロペラ 真先かけて
   皇国(みくに)に捧ぐる 雄々しき命
   無敵のつばさよ 溌剌こぞれ
   闘志はつきぬ 精鋭われら
地上はるかに 南だ北だ
   攻むるも守るも 縦横無尽
   戦闘爆撃 第一線に
   降魔(ごうま)のつばさよ 電波と奮(ふる)え
   東亜の空を 制するわれら
空を拓(ひら)かん 希望だ道だ
   七つの海原 大陸衝(つ)いて
   文化を進むる 意気高らかに
   金鵄(きんし)のつばさよ 世界を凌げ
   国威をになう 若人われら

  ラバウル海軍航空隊
銀翼連ねて南の前線  揺るがぬ護りの海鷲達が
   肉弾砕く敵の主力  栄えある我等ラバウル航空隊
数をば恃んで寄せ来る只中  必ず勝つぞと飛び込む時は
   胸にさした基地の花も  にっこり笑うラバウル航空隊
海軍精神燃え立つ闘魂  いざ見よ南の輝く太陽
   雲に波に敵を破り  轟くその名ラバウル航空隊
沈めた敵艦墜とした敵機も  忘れて見つめる夜更けの星は
   我に語る戦友の御霊  勲は高しラバウル航空隊

  空の神兵
藍より蒼き 大空に大空に
   忽(たちま)ち開く 百千の
   真白き薔薇の 花模様
   見よ落下傘 空に降り
   見よ落下傘 空を征(ゆ)く
   見よ落下傘 空を征く
世紀の華よ 落下傘落下傘
   その純白に 赤き血を
   捧げて悔いぬ 奇襲隊
   この青空も 敵の空
   この山河(やまかわ)も敵の陣
   この山河も敵の陣
敵撃摧(げきさい)と 舞い降(くだ)る舞い降る
   まなじり高き つわものの
   いづくか見ゆる 幼顔(おさながお)
   ああ純白の 花負いて
   ああ青雲に 花負いて
   ああ青雲に 花負いて
讃(たた)えよ空の 神兵を神兵を
   肉弾粉と 砕くとも
   撃ちてし止まぬ 大和魂(だま)
   我が丈夫(ますらお)は 天降(あまくだ)る
   我が皇軍は 天降る
   我が皇軍は 天降る

  ラバウル小唄
さらばラバウルよ 又来るまでは
   しばし別れの 涙がにじむ
   恋しなつかし あの島見れば
   椰子の葉かげに 十字星
船は出てゆく 港の沖へ
   愛しあの娘の うちふるハンカチ
   声をしのんで 心で泣いて
   両手合わせて ありがとう
波のしぶきで 眠れぬ夜は
   語りあかそよ デッキの上で
   星がまたたく あの星見れば
   くわえ煙草も ほろにがい
赤い夕陽が 波間に沈む
   果ては何処(いずこ)ぞ 水平線よ
   今日も遙々(はるばる) 南洋航路
   男船乗り かもめ鳥
さすが男と あの娘は言うた
   燃ゆる思いを マストに掲げ
   揺れる心は あこがれ遥か
   今日は赤道 椰子の島

  雪の進軍
雪の進軍氷を踏んで
   どれが河やら道さえ知れず
   馬は斃(たお)れる 捨ててもおけず
   ここは何処(いずく)ぞ皆敵の国
   ままよ大胆一服やれば
   頼み少なや煙草が二本
焼かぬ乾魚(ひもの)に半煮(はんに)え飯に
   なまじ生命(いのち)のあるそのうちは
   こらえ切れない寒さの焚火
   煙(けむ)いはずだよ生木が燻(いぶ)る
   渋い顔して功名噺(ばなし)
   「すい」というのは梅干一つ
着の身着のまま気楽な臥所(ふしど)
   背嚢枕に外套かぶりゃ
   背(せな)の温(ぬく)みで雪解けかかる
   夜具の黍殻(きびがら)しっぽり濡れて
   結びかねたる露営の夢を
   月は冷たく顔覗き込む
命捧げて出てきた身ゆえ
   死ぬる覚悟で吶喊(とっかん)すれど
   武運拙(つたな)く討死にせねば
   義理にからめた恤兵真綿(じゅっぺいまわた)
   そろりそろりと頚(くび)締めかかる
   どうせ生きては還らぬ積り

  勇敢なる水兵
煙も見えず 雲もなく
   風も起こらず 浪立たず
   鏡のごとき 黄海は
   曇りそめたり 時の間に
空に知られぬ 雷(いかずち)か
   浪にきらめく 稲妻か
   煙は空を 立ちこめて
   天つ日影も 色暗し
戦い今か たけなわに
   務め尽くせる ますらおの
   尊き血もて 甲板(かんぱん)は
   から紅(くれない)に 飾られつ
弾丸のくだけの 飛び散りて
   数多(あまた)の傷を 身に負えど
   その玉の緒を 勇気もて
   繁(つな)ぎ留めたる 水兵は
真近く立てる 副長を
   痛むまなこに 見とめけん
   彼は叫びぬ 声高に
   「まだ沈まずや 定遠(ていえん)は」
副長の眼は うるおえり
   されども声は 勇ましく
   「心安かれ 定遠(ていえん)は
   戦い難(かた)く なしはてき」
聞きえし彼は 嬉しげに
   最後の微笑(えみ)を もらしつつ
   「いかに仇(かたき)を 討ちてよ」と
   いうほどもなく 息絶えぬ
「まだ沈まずや 定遠は」
   その言(こと)の葉(は)は 短きも
   皇国(みくに)を思う 国民(くにたみ)の/td>
   心に永く しるされん
   
   
   
   
   
   
   
   
   

        

  討匪行
どこまで続く泥濘(ぬかるみ)ぞ
   三日二夜を食もなく
   雨降りしぶく鉄兜(かぶと)
   雨降りしぶく鉄兜(かぶと)
嘶く声も絶えはてて
   倒れし馬のたてがみを
   形見と今は別れ来ぬ
   形見と今は別れ来ぬ
蹄(ひづめ)の跡に乱れ咲く
   秋草の花雫(しずく)して
   虫が音細き日暮れ空
   虫が音細き日暮れ空
既に煙草はなくなりぬ
   頼むマッチも濡れはてぬ
   飢え迫る夜の寒さかな
   飢え迫る夜の寒さかな
さもあらばあれ日の本の
   我はつわものかねてより
   草生す屍(かばね)悔ゆるなし
   草生す屍(かばね)悔ゆるなし<
ああ東(ひんがし)の空遠く
   雨雲揺りて轟(とどろ)くは
   我が友軍の飛行機ぞ
   我が友軍の飛行機ぞ
通信筒よ乾パンよ
   声も詰まりて仰ぐ眼に
   溢るるものは涙のみ
   溢るるものは涙のみ
今日山峡(やまかい)の朝ぼらけ
   細くかすけく立つ煙
   賊馬は草を食(は)むが見ゆ
   賊馬は草を食(は)むが見ゆ
露冷えまさる草原に
   朝立つ鳥も慌し
   賊が油断ぞひしと寄れ
   賊が油断ぞひしと寄れ
面(おも)かがやかしつわものが
   賊殲滅の一念に
   焔と燃えて迫る見よ
   焔と燃えて迫る見よ
十一 山こだまする砲(つつ)の音
   忽(たちま)ち響く鬨(とき)の声
   野の辺(へ)の草を紅(あけ)に染む
   野の辺(へ)の草を紅(あけ)に染む
十二 賊馬もろとも倒れ伏し
   焔は上がる山の家
   さし照れる日のうららけさ
   さし照れる日のうららけさ
十三 仰ぐ御稜威(みいつ)の旗の下
   幾山越えて今日の日に
   会う喜びを語り草
   会う喜びを語り草
十四 敵にはあれど遺骸(なきがら)に
   花を手向(たむ)けて懇(ねんご)ろに
   興安嶺よいざさらば
   興安嶺よいざさらば
十五 亜細亜に国す吾日本
   王師一度(ひとたび)ゆくところ
   満蒙の闇晴れ渡る
   満蒙の闇晴れ渡る

  明日はお立ちか
明日はお立ちか お名残り惜しや
   大和男児(おのこ)の 晴れの旅
   朝日を浴びて いでたつ君よ
   おがむこころで 送りたや
胸の手綱を しみじみとれば
   胸にすがしい 今朝の風
   お山も晴れて 湧きたつ雲よ
   君を見送る 峠道
時計みつめて 今頃あたり
   汽車を降りてか 船の中
   船酔いせぬか 嵐は来ぬか
   アレサ夜空に 夫婦星

  ああ紅の血は燃ゆる
花もつぼみの若桜
   五尺の生命(いのち)ひっさげて
   国の大事に殉ずるは
   我ら学徒の面目ぞ
   ああ紅の血は燃ゆる
後に続けと兄の声
   今こそ筆を投げうちて
   勝利揺るがぬ生産に
   勇み立ちたる兵(つわもの)ぞ
   ああ紅の血は燃ゆる
君は鍬とれ我は鎚(つち)
   戦う道に二つなし
   国の使命を遂(と)ぐるこそ
   我ら学徒の本分ぞ
   ああ紅の血は燃ゆる
何を荒ぶか小夜嵐(さよあらし)
   神州男児ここに在り
   決意ひとたび火となりて
   守る国土は鉄壁ぞ
   ああ紅の血は燃ゆる

  暁に祈る
あゝあの顔であの声で
   手柄たのむと妻や子が
   ちぎれる程に振った旗
   遠い雲間にまた浮かぶ
あゝ堂々の輸送船
   さらば祖国よ栄えあれ
   遥かに拝む宮城の
    空に誓ったこの決意
あゝ軍服も髭面も
   泥に塗れて何百里
   苦労を馬と分け合って
   遂げた戦闘も幾度か
あゝ大君の御為に
   死ぬは兵士の本分と
   笑った戦友の戦帽に
   残る恨みの弾丸の跡
あゝ傷ついたこの馬と
   飲まず食わずの日も三日
   捧げた生命これまでと
   月の光で走り書
あゝあの山もこの川も
   赤い忠義の血がにじむ
   故国まで届け暁に
   あげる興亜のこの凱歌

  蛍の光
蛍の光、窓の雪
   書読む月日、重ねつゝ
   何時しか年も、すぎの戸を
   開けてぞ今朝は、別れ行
止まるも行くも、限りとて
   互に思ふ、千万の
   心の端を、一言に
   幸くと許り、歌ふなり
筑紫の極み、陸の奥
   海山遠く、隔つとも
   その真心は、隔て無く
   一つに尽くせ、国の為
千島の奥も、沖繩も
   八洲の内の、護りなり
   至らん国に、勲しく
   努めよ我が兄、恙無く
  
四番の歌詞は、領土拡張等により
文部省の手によって何度か改変され
ている
千島の奥も 沖縄も 八洲の外の 守り
なり(明治初期の案)
   
千島の奥も 沖縄も 八洲の内の 守り
なり(千島樺太交換条約・琉球処分に
よる)
領土確定を受けて
千島の奥も 台湾も 八洲の内の 守り
なり(日清戦争による台湾割譲)
台湾の果ても 樺太も 八洲の内の
守りなり(日露戦争後)